プロ野球ユニフォーム考
プロ野球の期間限定ユニフォームをどうにも好きになれない。球史を紐解き、かつてのユニフォームを今に甦らせる試みはよしとしても、意味のないものが多すぎる。温泉ランドの館内着のようだったり、特撮ヒーローのコスチュームそのものだったり。刺繍に代わる「昇華プリント」の発明により、大胆なデザインが可能となり、いつしか「やった者勝ち」の風潮が生まれた。
一方、海の向こう大リーグでは、頑なに伝統と格式を守り「刺繍のユニフォーム」をひとつの規則としている。「プリントユニフォームはマイナーリーグ、はたまたリトルリーグ」。つまり格下の扱いということになる。
期間限定ユニフォームはこちらが元祖である。1990年代に入り、先達に敬意を表する「オールド・タイマーズ・デイ」が各球団で開催されるようになり、昔の復刻ユニフォームを着て試合を行うことがひとつの慣わしとなった。昨年2022年からは「シティ・コネクト」と呼ばれる新しい運動がはじまった。本拠地の「お国自慢」をデザインに盛り込んだ特別なユニフォームが登場する。いずれもしっかりとした理由づけがある。昨季、巨人軍が制作したヨージヤマモトデザインのユニフォームからはこの「理由」がまったく見えなかった。巨人軍の品位ではなかった。たとえばこれと同じ発想でニューヨークヤンキースがマーク・ジェイコブスデザインのユニフォームを身にまとうことなど絶対にありえない。
そうしたワケでーー。オクタキは今回も恰好の標的を見つけてきたんだなと思われるだろうが実はそうではない。意外にもデザインがすこぶる良いと思わせる一着があらわれた。阪神タイガースこの時期恒例のイヴェント「ウル虎の夏シリーズ」2023年の新作である。
虎の顔が後ろ前に描かれている。横から見ると斬新なラインに姿を変える。昇華プリントでしか出せない表現と感じる。注目は背面でサークルのなかに背番号が配される。実はこれを最初にやったのは米ヒューストンアストロズ。今なおファンの間で人気の高いレインボーカラーのグラデーションユニフォームが登場した1975年に一年間のみ使用されたものだった。宇宙都市ヒューストンにふさわしい、まさしく宇宙に通じるデザイン。
ユニフォームは球団史であり、ファンにとっては自分史でもある。あの日のサヨナラホームラン。優勝を決めたあの日のクローザー。セピア色に変わることなく鮮烈な発色のままあの日あのときのユニフォームが心に映し出される。ずっと変わることなく誇りでありたい。
文・奥瀧隆志
※7月28日大幅に加筆しました。
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