惜別 水島新司
分身とも言うべき「あぶさん」が現役を引退し、ほどなくして物語が完結した頃から、多くのファンはこの日が来るのを覚悟していたことと思います。我々昭和40年男にとって野球漫画の王様であり、野球そのものの魅力を選手以上に教えてくれた人でした。
呑んべいのスラッガーがプロ野球で活躍するーー。新作のアイディアを南海・野村克也監督に持ち込んだところ「代打なら使える」と背中を押され「あぶさん」が誕生しました。野村監督はこのとき水島氏の絵について触れ「こんなフォームでは実際には打てない」とダメ出し。以来、よりリアルな模写を追求するようになったといいます。選手たちから熱烈に愛されたのは、実物以上にそっくりに描く努力が認められたからこそでした。
マイベストは「男どアホウ甲子園」(70-75年)。同時期に描かれた「ヘイ!ジャンボ」「輪球王トラ」など短編も出色。奇想天外なストーリーが「ドカベン」への布石となりました。
この人がいなくても誰かが代わりに野球を描いたでしょう。しかし、どんなに想像を膨らませてもそれを読みたいとは思えません。まさしく天才でした。昭和の名選手たちがあの世で宴会の準備をしていることでしょう。野球をありがとうございました。
※写真は1980年リリースの主題歌集
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