ライヴ評 バイバイマイラブ 9月9日@宇部市BIGHIP
創立15周年を記念したサザナミレーベルの全国ツアー。宇部限定のスペシャルゲストは蒲池岳オーナーたってのリクエストだったとか。一夜かぎりのワンナイトショー。バイバイマイラブの再結成ステージを宇部BIG HIPで見た(9月9日)。
ROZWELLSのカクヨウジとTHE TUESDAYのユカが同じバンドに居たという事実が若い世代にはトリビアとなりつつある。解散からすでに10年近くが経過。昔を懐かしんだり、昔に目を向けたりが出来るのも、ふたりのバンドがこの10年をがむしゃらに生き抜いた証だろう。つまり歴史が少しだけ生まれた。宇部にはとりたてて何もないけどロックならある。うだつの上がらない大人たちの社交場がある。20歳だった者が30歳となり、30歳は40歳となり、しまいには40歳だった者までが未だに居座っている。足掛け12年で通算100回を数えるカク主宰のシリーズライヴ「いつかはクラウン」に功績があるとすればそんなところだ。
21世紀初頭にバンドは誕生した。カク率いる青春不良楽団が徳山市(現周南市)で東京スカンクスと共演したことで生まれた新発想だった。ラスティック楽団のスタイルを標榜しつつも、カクの持ち味であるバタ臭さ(褒め言葉だ)が唯一無比の個性を生んだ。「いつかはクラウン」に全国からやって来るバンドたちの目にとまり「ミュージシャンズミュージシャン」的に愛され、その名は日本中に広まっていった。
実を言うと筆者は彼らのライヴを一度も見ていない。BANANA ERECTORSをやめていった連中になど興味はなかった。いや、そんなふりをしていただけで、気になって仕方なかった。伝え聞くハナシはどれも刺激的だった。周南市チキータで行われたライヴがエフエム山口でブロードキャストされた夜のことを今も忘れない。自室のカセットデッキのRECボタンを押し、ひとり夜のドライブに出かけた。カーステから流れるバイバイマイラブは満天の星のように煌めいていた。
あれから何年経ったのだろう。2018年のバイバイマイラブは皆いい顔をしていた。現役組(カク、ユカ)とリタイア組(マスミ、ヒロ)のオイル混合比がなにしろよかった。ガタゴトと白煙をあげて焼野海岸を突っ走るヴェスパそのもの。実戦から最も遠ざかっているドラムスのヒロは見るからにおっかなびっくり。それを煽るカクのひと言で、逆に緊張の糸が解けていった。ハンサムなスマイルで歌いながら叩く。そう、歌いたくなる。歌わずにはいられない。シンガロングバンドの真骨頂が躍如としていた。
歌詞はやけにリアルに響いた。アンドレの赤く長い髪が風になびくのをたしかに見るのだった(バイバイマイラブ)。どこを切っても「ボーイ・ミーツ・ガール」な世界は当時のプラベートを映しているように感じられた。「いつものことねと諦めておくれ/ぼくの靴が欲しいなら/君にいつでもあげるから」(金曜日)。
人気絶頂期には新宿ロフト(バーステージ)でのライヴも体験。周囲には順風満帆に見えたがあっさり解散。「(バンドをより進化させていくうえで)自分にキャパが足らなかった」。カクのなかでの解散理由は一貫して変わりない。メンバーそれぞれが結婚、出産という人生の一大事と向き合いながらの活動。制約を余儀なくされたことも遠因であろう。だからこそーー。だからこそ愛おしい。日本の片田舎で彼らが紡いだラヴソングの数々は他の誰のものでもない。切なくはかなくこんなにも美しい。
メンバーはこの日、大きくなった子どもたちをフロアに招待した。ステージとテーブルを交互に眺めてはそんな思いに駆られていた。人生はようやく五号目の頃。第二部の幕は上がるだろうか。静かに期待したい。
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