美術展感想 kozi69展「シンプルなポップ」VOL.4 @宇部市GLYCINES

kozi69の五日間が終わった。お気に入りの「女の子」をバックに、作者と記念撮影をして、グッズを買って帰るーー。そうしたいつもの光景とは少し違う。アナザーサイドを存分に見せたエキシビジョンだった。


kozi69は1981年宇部市生まれ。デザイン会社を辞め、家にこもって毎日イラストを描いていた2003年のある日、兄でロックプレイヤーの中村大(当時デカダンス/現ロズウェルズ)からの依頼でフライヤーを描くようになった。その名のとおりロックテイストあふれるイラストはこの街の与太公どもの心証を良くした。

スコットランドの民族衣装で、パンクのアイコンでもある「赤のタータンチェック」を独自のモチーフとし、ボーイ・ミーツ・ガールな世界を描き続けた。年末の宇部市文化会館での作品展で若者たちが「赤チェック」を身につけて集う様子が風物詩となった。

2015年暮れ。宇部市でユニークな催しが行われた。県内外のアーティストがJR宇部線東新川駅に集結。駅舎を舞台に絵画、彫刻、インスタレーションなどを創作、展示する試み。オーディエンス参加型エキシビジョンとあって多くの来場者で賑わった。「Circus」と題されたこの催し、仕掛けたのは画家で当時宇部フロンティア大学准教授の原井輝明氏。kozi69もアーティストの末席に名を連ねた。

上り線ホームの待合い小屋、内側の壁全面を使い、ホームに到着したクモハ123系の様子を100/100スケールで描いた。題名を「TRAIN-TRAIN」。窓の向こうにはいつもの女の子たちがいる。沿線の高校生たちの日常が活写されたこの巨大壁画は、電車が着くたびに響めきが起こりたちまち評判を呼ぶ。これが例えば原宿駅のホームや渋谷109の土手っ腹に描かれたとしてもおかしくなかった。クオリティへの評価。しかし、そんなことではないのだ。宇部を舞台に宇部の若き群像を描くことの斬新さ、ひいては尊さをこのとき初めて思った。

もうひとつのエポックが2018年にある。いつもの女の子のうしろに見慣れた風景が描かれた。この年オープンしたばかりのカフェ&バー「GyaAtee(ギャアティ)」。可笑しくて可愛らしいバーチャルリアリティに拍手喝采となった。2作目は「養老乃瀧」。3作目は「宇部井筒屋」。さぁ、次はどこだろうーー。新作発表を今や遅しとネット上に皆が張り付いた。ならばと全作品を一気に披露する「私たちの宇部」と題したパーティーがギャアティにて行われた。私の店が描かれているなど思いもしなかった。ギャアティの希(のぞみ)さんからの「おくたきさん!早く来て!」のメールで駆けつけた。「田村歯科の女の子が一番可愛い」。「松原酒店のモデルは誰だろう」。ライブハウスの熱気さながらのエンドレスな夜となった。

この企画はその後「まちかどシリーズ」と題され、各方面で引っ張りだことなる。昨年末、宇部市寿町「株式会社元山商会」新社屋建設の際に工事フェンスに7作品が採用され道ゆく人々を楽しませた。誰にでも思いつくアイディア。しかしkozi69にしかない世界。ガソリンだけでは動かないヴェスパのように、ウィットと温かみの混合比の妙を見る。

「シンプルなポップ」VOL.4を振り返る。シルクスクリーンプリントだけで挑む初の作品展。シルクを始める動機となったのは「アナログ(アート)に対する長年のコンプレックス」だと言う。例えば油彩画と比べ、デジタルアートは低く見られがちなのか「絵筆を持ったことのない人さえいる」と揶揄されることも少なくない。むろんkozi69のそれはアナログなスケッチあってこそのデジタルだが、作品を無限に複製できることは確かだ。描くことへの存在証明を求めるかのようにライヴドローイングを積極的に展開してきた。デジタルで描きアナログで抽出ーー。インクまみれになりながら世界にひとつを生み出す。まさしく新規軸だった。

シルク一版につき一色のみプリントされる。版を重ねることで「総天然色」を生み出すが、デジタルのように細かいディテールは到底不可能。ゆえ以前よりも地味な色世界を想像したが、目に飛び込んできたのはウルトラ総天然色だった。蛍光インクを使い5版で描いた「girl/more jelly beans」が展示の核となった。同じく蛍光を使った「girl/LET’S 09」は80年代のムード。同時代のアイコンである「LET’S 09(レッツオーナイン)」をしれっと登場させている。スクリーントーンによる印影は江口寿史経由のリキテンシュタインを想起させる。

宇部愛はここでも貫かれる。パークレーン宇部の自販機で誰もが一度は飲んだ「フジヤマ飲料」のスマックをアンディ・ウォーホル調に表現。新天町商店街はノートルダム大聖堂のような荘厳さがある。そして今回の舞台となる「GLYCINES(グリシーヌ)」をイメージした「藤に杜鵑」は版ズレによるわびさびを湛えた。

モチーフの可笑しさと技法の楽しさ。そして作品の美しさ。真正面から見て、斜めから見て。鼻を近づけインクを嗅いで。一歩下がってまた見て。オーディエンス思い思いの楽しみ方があった。

最終日、最後の来場者は高齢のご婦人お二方。御歳90歳。この日の仕事を終え、勤め先の若い同僚方々とともに。息を切らして三階まであがって来られたシーンが今も頭から離れない。Tシャツと「水筒(=タンブラー)」を手にして少女のような笑み。やさしさに包まれkozi69の五日間が終わった。 

山口県宇部市鵜ノ島の眼鏡・時計の専門店| めがね とけい は おくたき

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