美術展レヴュー 「めがねで旅する美術展」@益田市グラントワ
24日(月)はお休みを頂き、島根県益田市「島根県立石見美術館」で開催中の企画展「めがねと旅する美術展」を観てきました。すこしレヴューを書きます。
「眼鏡」に材をとった美術展。歴史と文化を詰め込んだミュージアムな内容を想像しますが、趣はまったく異なります。顕微鏡、望遠鏡、万華鏡に潜望鏡、はたまた3Dスコープ。広い意味での「眼鏡」がたくさん登場します。レンズを通して見るーーつまりガラス越しにモノを見ることで目の前に広がる別世界をテーマとしています。
青森、静岡、島根の美術館キュレーター三名からなる「トリメガ研究所」が企画。「視覚」をメインテーマとした三部作の最終編です。「トリメガ」とは「トリプルメガネ」の略で三人が揃って眼鏡をかけていることに因んだもの。今回のテーマ「眼鏡」は当然の帰結であったとか。
広い会場を活かした大小様々な映像インスタレーションが目を引きます。その「仕掛け」こそがこの美術展の肝です。伊藤隆介氏による「ポータブル・デュシャン」はその名のとおりマルセル・デュシャンへのオマージュ。ドア穴を覗くとトリッキーな立体絵画が現れるオリジナルを、液晶ディスプレイを用いたポータブル機器として現代ふうにアレンジしたカヴァー作品です。
「穴から中を覗く」という行為は古今東西人びとの好奇心をくすぐるようで、日本でも江戸時代に数多くの機器が作られています。平賀源内の作といわれる「覗き眼鏡」などアメイジング・ディスカバリーがありました。
「両眼視」は我々眼鏡屋にとって「基本のき」。右目と左目で見る景色には実はズレが生じます。これによって立体と奥行きの認識が出来ます。この原理を利用し、わずかに位置をずらして撮影した二枚の絵を左右に置くことで立体的に見せる「ステレオ写真」。
1860年代にオランダで作られたものが津和野に渡っていたというから驚きます。津和野郷土館に残る貴重な現物を展示。地方発信という意味でも価値あるピックアップです。
新進気鋭のアーティストによる作品が一堂に集まり、ミュージアムショップにズラリと並ぶ画集とも連動して見本市のようでもありました。超写実的な裸婦画で知られる諏訪敦氏による「新宿からの富士」は東京都庁の展望台から臨む富士山を描いた大作。あたかも双眼鏡で覗いたかのように対象物にのみピントを合わせた模写は息を呑む美しさでした。
今回島根編の会場「島根県立石見美術館」が入居する「島根芸術文化センター/グラントワ」は2005年10月の開場。地元の名産・石州瓦28万枚を使った建物の景観は実に美しく、訪れるたびに心洗われるプレイスです。「めがねと旅する美術展」島根での会期は11月12日まで。眼鏡屋も兜を脱ぐ面白さです。
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