宇部市制施行100周年特別読み物 第一話 三鷹淳と宇部

「レコード・コレクター」を自称する者は極めて少ない。たいがいは覆面をかぶり素顔を見せたがらない。

「上には上がいる。自分はまだまだだ」という謙虚さがそうさせる。逆に「コレクションを大っぴらにする者ほどたいしたモノを持っていない」というライバル心のあらわれでもある。これが世界を目指す卓球選手の言葉だというなら立派なものだが、大の大人が子供じみた趣味をいつまでも続け一喜一憂しているのだからおおよそ世の中のためにならない。

第一級コレクターと呼ばれる者ほど見た目にギャップがある。オフ会で初めて会うべく駅のコンコースで待ち合わせをした場合に「まさかこのヒトではないだろう」という平凡な人物がこちらへ向かって歩いてくることがよくある。真のマニアとは装うことなく普通の姿をしている。これはジョン・レノンが死の直前までマーク・チャップマンに対して無警戒であったことからも立証できるだろう。

我々の暮らす宇部市は人口17万人ほどの小さな町だが、市民の「ロック偏差値」は意外なほど高い。老舗のレコード店が洋楽専門の支店を構えていたことは以前にも紹介したとおり。地理的にエフエム福岡が受信しやすかったということもある。ロックに親しむには最適な環境が整っていた。そんな時代を謳歌した者たちがいまもロックを聴き続け、その一部が無自覚のままマニアへとコレクターへと「昇進」していることはしぜんに頷ける。ひょんなことから、そうした方々と知り合うことがある。鏡に映った自分の姿を見るかのようで猛烈に恥ずかしい半面、同郷の同志に出会えたことが無性に嬉しかったりもする。長州藩のスピリットはこんなところにも生きているのだ。

そのうちのひとり。Aさんとしよう。このAさんの蒐集対象はかなり”へんくう”だった。宇部にまつわる自主制作盤を片っぱしから集めていた。「南蛮音頭」からはじまり宇部市に本社を置く企業の社歌、宇部市が制作した市民歌、宇部市西岐波区の町内歌、なんでもござれ。いずれも入手は容易くない。ヤフオクで検索アラートを寝て待つような類ではない。靴をすり減らして探し歩くしかないのだ。コレクターの原点を見る思いがした。

Aさんのお株を奪うかのように、今回、私が幸運に入手した一枚をここで紹介したい。「宇部中央銀天街音頭」。Googleで検索しても出てくるのは宇部市立図書館のアーカイブページのみである。まさしく幻の一枚。

1971年(昭和46年)日本コロムビア委託制作盤。歌っているのは三鷹淳。昭和9年宇部市出身の歌手。「闘魂こめて」(巨人軍の歌)の初代ヴァージョンを歌ったことで知られる(*三重唱のうちの二番を担当した)。B面は再録となる「宇部市民の歌」。三鷹は他にも宇部市はもとより山口県全域において数多くの社歌、県歌をレコードに吹き込んでいる。その数じつに百曲。この知られざる英雄については近く文献をまとめる予定である。

レコードに針を落とす。昭和の宇部の風景が退色したフィルムのように目のまえに広がる。空を見上げれば壮麗な大和タワー。洋楽専門のレコード店もこの商店街にあった。四番のリリックがいい。
 
雨は降らぬが銀の傘/若いこころに濡れている/宇部の中央銀天街/ごっぽええとこ銀天街

衰退した商店街のいまを憂うのではなく、かつての繁栄を心で感じたい。レコードとは永遠の時を刻む魔法の円盤である。

Aさん。パソコンのアドレスをうっかり捨ててしまった。見ていたら連絡してよ。どうやらこのレコードは君ん家の棚のほうが居心地がいいらしい。気にしないでいいよ。安くしとくから。

※2015年4月17日facebook掲載文を加筆しました。市制100周年にあわせて宇部市関連のレコードをこれから不定期に紹介していきます。お楽しみに。

山口県宇部市鵜ノ島の眼鏡・時計の専門店| めがね とけい は おくたき

「めがね とけい は おくたき」は宇部市鵜の島(山口県)の眼鏡・時計店です。「おくたき」は眼鏡と時計の販売を始めて63年。THEO(テオ)アンバレンタイン エフェクターなど眼鏡の量販店にはないヨーロッパの眼鏡を「おくたき」では多数取り揃え。経験に裏打ちされた時計の修理 電池交換 ブレスの調整を承っております。

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